訳語1

ISBN:4309462804ISBN:4309462812
の二冊を買う。前者はとりあえず一度読み、後者はパラ読み。それぞれ個別の感想もあるんだけど、今回は訳語について。
このどちらの本もスキゾフレニーないしシゾフレニーを「(精神)分裂病」という訳語を意図的に使用している。現在この呼称は「差別的」であるとされ、病名を訳す(この病気をあらわす)ときは「統合失調症」というのが「正しい」。しかし、どちらの本もその「分裂」という言葉を肯定的なイメージでとらえており、さらに言えば「失調」というネガティヴな語感についてはまさに否定的であるようなのだ(「まとまって<いない>」というか、「バラバラ<である>」というかの違い)。それぞれの理由を述べた箇所を引用しておく。

「今回の対談でも当然最初は統合失調症に統一していただこうと考えたのだが、お話をしているうちに、檜垣さんはこの「分裂」ということばを、滅裂とか不統一とかとしてでなく、ご自身の哲学の基本的なタームである「差異」とどこかでリンクさせてイメージしておられるらしいということに気がついた。だとするとこれは「統合失調」では困ることになるだろう。今回の対談が臨床よりも哲学のほうにより多く重点のかかった企画であり、哲学にとっては言葉のコノテーションが代替不能な重要性を持つことを考えて、あえて「分裂病」に統一することにした次第である。読者の方々のご理解を切にお願いしたい。」
(『生命と現実』、対談を終えて、pp.214-215。なお、この記述は木村敏さんによるもの)

「近年、日本の医学界は、<分裂症>に変えて<統合失調症>という名称を採用するようになったが、この本は<分裂症>をいかに肯定的な「過程」として理解するかを本質的な課題としている。<統合失調症>という、それ自体あらかじめ否定性を含んだ命名によっては、この本の趣旨をよく表現することができないと考える。」
(『アンチ・オイディプス』下巻訳者あとがき、p394)

こういう問題は難しい。まず一つはかつては正しいものとされていたことばが変わるということ。さらにいえば今回wikipediaに当たって調べた変更理由と木村敏さんによる変更理由は微妙に食い違いを見せているが、そのような食い違いが起こりうるということ。もう一つはそれによりこれらの本がどこにどう届くかということが(いや、もともと本なんてビンに詰めて流すメッセージみたいなものなんだけど)あるということ。今は過渡期であるから問題なく(ないことはないけど)「現代思想」でありうるこれらの本がその現在性、アクチュアリティを(今回読んだ対談の意図に即して言えばそう呼ぶという行為、アクトをしていない)持つのかどうかということ。